2013年10月11日 23:57
「水俣条約」を採択
熊本の外交会議、水銀の輸出入など規制
水銀汚染の防止を目指す国連環境計画(UNEP)の「水銀に関する水俣条約外交会議」は10日、熊本市のホテルで全体会合を開き、水銀の輸出入や環境への排出を規制する内容の条約を全会一致で採択した。未曽有の公害、水俣病をもたらした物質を規制し、地球規模で被害を減らす取り組みが、ようやく世界レベルで始まる。
全体会合は約140の国と地域の政府代表など約千人が参加して午前10時20分にスタートし、ホスト国日本の石原伸晃環境相を議長に選出した。開会に先立つセレモニーでUNEPのアヒム・シュタイナー事務局長は「被害の根絶に向けそろそろ行動すべき時間が来た。ともに努力しよう」と訴えた。
条約採択後、石原環境相は記者団に対し「水銀のリスクを最大限減らすことに人類が立ち上がった第一歩。歴史的瞬間を熊本で迎えられたことは感慨深い。早く、多くの国が批准するよう、私たちは頑張っていかなければならない」と述べた。
「水俣」を冠した条約名は日本政府の提案。条約は35条と五つの付属書で構成され、前文には「水俣病を教訓に、重大な被害を二度と繰り返さない」との内容が盛り込まれた。さらに、水銀を一定量含む製品の製造や輸出入を2020年までに禁止▽水銀鉱山の新規開発を禁止▽大気や水、土壌への排出削減−などが規定されている。各国は国内法の整備などを進め、50カ国が批准すれば発効する。UNEPは16年の発効を目指している。
会合は同日夕まで行われ、途上国への技術や資金支援策など、今後の課題やスケジュールを定めた関連決議を含む最終議定書を採択する。
- 西日本新聞経済電子版 から引用 -
「水銀の害について日本は痛いほどわかっているのに、やっと規制できたのか。」と今回のニュースをきいてまず思いました。。。
「水俣病、水銀の害は過去のこと」と思っている人もいるかもしれないが、とんでもない!
安倍晋三首相も「日本は水銀による被害を克服した」という趣旨の発言を会議でして、反発をくらっていましたが、こう考えている人は意外に多いのかもしれません。
しかし水銀というものは、いまだに害が出ているやっかいなものなのです

水銀は、常温・常圧で凝固しない唯一の金属で、銀のような白い光沢を放つことからこの名がついています。
科学分野ではその特性から色々と活用されていますが、それがひとたび人体に入ればひどい害を引き起こすのです。
じつは、普段の食物に占める魚介類の割合が多い日本では、他国と比較して水銀の摂取量が高いことが知られています。
とはいえ、[有機水銀と胎児について。]の記事にも書いたように、魚介類は身体にいいものなのでなんでもかんでも魚を避ける必要はないです。
ただ、水銀を多く含む大形の魚の摂取を控える必要はあります。
水銀の摂取量の地域的特徴をみても、マグロ類の消費傾向とよく一致しており、関東地方などを中心とする東日本で高く、中国地方から九州北部にかけて比較的低くなっていたりします。
いまでも我々日本人は、水銀を摂取しているのです。
今回の条約のなかにもある「発展途上国での使用の制限」ですが、これも日本と大きく関係してきます。

現にアフリカでは、採掘現場の近くの川の下流で、水俣病と同じ症状の人が出ていることが確認されています。
また、水銀は廃水だけでなくガスとして大気中にも排出されており、排出源ごとの大気排出量は、1位が小規模金採掘(37%)、2位が化石燃料燃焼(25%)となっています。
そうやって排出される水銀のやっかいなところは、一度排出されるとほとんど分解されないということです。。。
分解されないので、使えば使った分だけ国境を越えて大気中・水・土壌・生物の間をさまざまな形態で循環し続けることになるのです。
水俣病の教訓から水銀の使用量を日本国内では抑えていますが、他の国が使っていれば、大気を介し、魚介類を介して私たちの身体に入ってくるのです。
こうやって書くと、「発展途上国の害が日本にきている」なんて思う方もみえるかもしれませんが、その発展途上国に日本は多くの水銀を輸出しているのです。。。
さきほども書きましたが、水銀は一度取り出せば分解されません。
ということは水銀を使用したら、それを回収して保管しなくてはいけないのですが、放射性物質と同じように安定して保管する技術は日本では確立されていないのです…。
EUでは、水銀の保管については、容器に入れ、①岩塩鉱など深地層の岩盤の中に密封して暫定期間又は永続的に貯蔵、又は ②暫定的貯蔵のために用意し装備された地上の施設に暫定期間貯蔵、との方法を認めています。
現在、ドイツの有害廃棄物の地下処分施設(岩塩採掘跡地)では、水銀含有廃棄物が容器に入れて貯蔵されていますが、日本にはそのような大きな岩塩採掘跡地がないので不可能です。
一方アメリカでは、現在、軍保有の水銀は、フラスコに注入して6本ずつドラム缶に入れ、地上倉庫で保管していますが、地震大国である日本ではなかなか安定して保管していられないといわれています。
日本の環境省は揮発しやすい液体状の水銀を固体の硫化水銀に変え、樹脂などで固めて安定化させたうえで、処分場で埋め立てる方法などを検討しています。
しかし、北海道北見市などに工場がある国内最大手の水銀のリサイクル業者は、安定化させた硫化水銀を処分場に埋め立てたあと、長期間にわたって溶け出さないかどうかはまだ十分に確認できていないと指摘しています。
水銀を長期的かつ安全に管理する方法としては、①金属水銀の形態で保管容器に充填して保管、②硫化水銀化して専用倉庫で保管、③硫化水銀化して管理型処分場に埋立、などが考えられるが、コストや技術の成熟度、管理の安全性などから、まだまだ安定して処分する方法がないのです。
では、そんな日本は現在どうしているかというと、使用済みの蛍光灯や電池などからリサイクルした水銀を年間100トン前後、発展途上国に輸出しているのです!
世界でもトップクラスの輸出量で、日本で処理できない水銀を金を貰って引き渡している状態といえます。
だから、発展途上国ばかりを責めるのはおかしいのです。
しかしそうやって海外へ輸出している日本ですが、今度の「水俣条約」では、水銀の輸出は規制されることになりました。。。
日本では、水銀の処分や保管のための技術だけでなく、ルールや基準もまだ整備されていません。
今後、使用量をさらに減らすとともに、水銀の安全な処分や管理の方法について検討していかなくてはいけないのです。
当然、発展途上国への支援をしつつです。
日本はあまり関係ないと思っていた方もみえたかもしれませんが、今見てきたようにそんなことは決してないのです。
日本・発展途上国・先進国関係なしに、分解されない水銀は循環し、私たちの身体のなかに蓄積していっています。
「採択されるのが遅すぎる」とも思いましたが、“ これ以上水銀の害を広めないための大きな一歩がこれで踏み出せた。 ”ともいえます。
まだまだ問題点や課題も多いですが、水俣病を経験した日本がリーダーシップをとって、水銀の害を減らしていってほしいものです。。。
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